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2009年08月07日

【想い出釣行記】第三話 まきあみ

中学時代の親友にアツシという奴がいた。
数学がバリバリにでき、中学時代だけで20センチも身長が伸びた奴だ。
父親同士も同級生という事もあって、家族ぐるみで付き合いをしていた。

ある夏の暑い日、僕がアツシの家に遊びに行くとアツシの親父がいた。
田んぼから帰ってきたばかりで真っ黒に日焼けした顔に満面の笑みを浮かべている。
「おう!伸、良く来たなぁ。おめぇ今日暇か?」
ちょっと薄くなった頭を気にしながら僕にたずねた。
「暇、暇。夏休みでみんなどっかに遊びに行ったからアツシとでも遊ぼうと思ってきました」
と、答えると
「アツシは今、田の草取りやってるんだ。おめぇ暇だったら俺と鮎(アユ)とりに行かないか?」
願っても無い事だった。
「うん。行く行く」
「よし、じゃぁこっちへ来い」
と、言って納屋の方へ歩き出した。

「鮎と言ったら友釣りかなぁ。やった事無いからどーしようかな。」
ぶつぶつ独り言を言っていると、親父は納屋の裏手に止めてあった軽四輪のトラックにすばやく乗り込んでしまった。
「トーちゃん。竿もびくも何にも用意してないよ」
心配になったのでたずねると
「だいじょーぶ。これがあるんだ」
といって荷台の片隅に置いてあった網を指差した。
釣りをするとばっかり思ってた僕はちょっとがっかりして
「トーちゃん、釣りじゃないのぉ」
と聞くと
「ばーか、釣りなんかよりこっちの方が何十倍もおもしろい。さぁ行くぞ!」
と、いって軽四輪にエンジンをかけた。


全開にしたトラックの窓から、夏の焼けたような風が舞い込んでくる。
山のデコボコ道を、荷台の荷物でガンガン音を立てさせながら鮭川へと向かった。

鮭川は、最上川の支流にあたり、その昔は鮭が遡上してくる事からその名がついたという。
今は遡上してくる鮭はいなくなったが、その代わりギンギンの天然鮎が上ってくるそうだ。

アツシの親父は胸までくる長靴をはいて川をジーッと見つめていた。
普段の柔和な眼とは比較にならないスルドイ目だ。
いきなり川に向かって駆け出すと上流に向かって「コ」の字型に網をかけた。
投網しか知らない僕は
「これ、なんていう網なの?」
と、親父に向かって大きな声で聞くと
「巻き網だ、巻き網!」
と、光るしぶきの中で答えた。
「それより、上流から鮎を追え!」
おろおろしながらも急いで水泳パンツに履き替え川に飛び込んだ。
とりあえず、網を仕掛けた方に向かってジャバジャバしながら鮎を追い込む。
網を上げてみると5,6匹の銀色に光るきれいな魚体がかかっていた。
「やったー!」
僕は得意満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「だめだ、だめだ。少ねぇ、少ねぇ。おめぇは、鮎の追い方が駄目なんだ」
と、取れたばかりの鮎を網から優しくはずしながら言った。
「もう一回だ。今度は拳大くらいの石を俺が言ったところに投げろ」
といいつつまたスバヤク網を「コ」に字型に仕掛けた。
その瞬間、
「伸!あそこの急な流れの真ん中に石を投げろ」
僕は言われたとおりに用意していた石を、言われたとおりの場所へ投げた。
上流へ向かって逃げていた鮎が石の投じられた音でいきなり反転した。
逃げ込んだ先には網が待っていた・・・・・。

アツシの親父はニコニコと網にかかった十数匹の鮎を、またしても優しくはずしていた。
「な~んだ。わざわざ川に入って鮎を追わなくても、石っころをなげればいっぱい取れるジャン」
と僕が言うと
「よーし。今度はおめぇが思ったところに石をなげてみろ」
というのでさっそく、また網を仕掛けてもらって挑戦した。
今度は10匹どころか5匹も取れなかった。
何度試しても結果は同じで、なぜ違うのかをアツシの親父にきいてみると
「鮎には鮎の逃げ道が最初から決まっているんだ。その逃げ道に投げる石を要石(かなめいし)といって、鮎の逃げ道を石1個でふさいでしまうんだ。おめぇが投げた場所は逃げ道でもなんでもねぇところだから、鮎は知らん顔して逃げって行ったんだ」
僕はさすがにびっくりして
「じゃあなんで鮎の逃げ道がわかんの?」
ときくと
「経験さぁ」
といって詳しくは教えてくれなかった。

そのあと僕らは取れたての鮎を河原で塩焼きにして残った鮎をもって帰ることにした。
とったのはほとんどアツシの親父だったけど、
「おめぇのトーちゃん、カーちゃんやじさま、ばさまにも食わせてやれ」
といって10匹くらいの鮎を分けてもらった。

-*-*--*-*--*-*--*-*

あれから30年たった今でもアツシの親父は健在だ。ただ歳のせいか昔よりも川にいく回数が減ったという。
「昔より鮎の数も減ったからなぁ」
と、この間会ったときにしみじみと言っていた。

故郷の町は帰省するたびに変って行く。住んでいる住民にとっては住みやすくなることは当然良い事で、田舎から離れて暮らす僕たちがどうこう言う資格は無い。
ただ一つだけ言わせてもらえば、せめて川や湖、そしてそこの周りの環境やそこに住んでいる魚たちだけは昔と変ってほしく無いものだ。
石川啄木の詩ではないが「故郷は遠くにありて想うもの」であり「そして優しく詠うもの」であると思っているからだ。




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