【想い出釣行記】第六話 谷川の舞姫

2009年10月26日 20:18

いつもの土日なら必ずどちらか一日は朝霞ガーデンに釣りに行くのだけれど、土曜日は野球の試合、日曜日は子供の学校行事で、模擬店でうどん作りや片付けをしていたら釣りに行く時間がなくなりました(泣)

今週は釣りに行けなかったなあ(>_<。)

ブログねたもあまりないので、お時間のある人は暇つぶしにご覧ください

ラジオの深夜放送が午前2時を告げたとき、僕らの乗った車は関越自動車道の越後湯沢ランプを降りたところだった。
シートベルトを少し緩め、窓を開けると、夏の終わりを告げるかのように冷ややかな、「秋の風」が舞い込んできた。

学生の頃、ロックやパンク、フュージョンをやっていた仲間たちが、今はなぜか、釣りにいく車の中にいるのが不思議だった。
そう、僕らは学生の頃「音楽友の会」という、軽音楽サークルに入っていた。
その頃は、授業にはろくに出席せず、サークル仲間と朝から晩まで一緒にいた。
夜になれば、友人のアパートや近くの居酒屋に集まっては大騒ぎを繰り返していた。
そんなミュージック野郎達がいつの間にかみんな釣りをするようになったのも時代の流れなんだろうか。

メンバーはSEN、オオバ、サトウ、ナベ(僕のカミサン)、ゴジラ(SENのカミサン)と言うメンバーだ。

僕らは2台の車に分乗し、新潟の奥、越後湯沢の町外れを流れる魚沼川(だったか忘れた)の上流へ向かった。
暗闇の中オオバが運転するワゴンが、川と並行に走る道路の路肩に寄った。道幅は車が2台やっとすれちがえるような狭い場所だ。
釣り場の近くについたのだ。

僕らはオオバのワゴンからテントやランタン、薪などキャンプに必要なものを運び出した。
川のほとりでテントを張り、そして焚火をたき、酒を飲みながら朝を迎えるつもりなのだ。

一通り準備が整い、焚火の火が熾きた所で、僕らはビールを飲み始めた。
静寂の中の、川のせせらぎと焚火は、とても優しく僕らを包んでくれる。
焚火を囲みながら、なぜかみんな沈黙していた。
いつも飲みながら大騒ぎしているメンバーも、自然の包容力の前では親に叱られた子供のようにただうつむき、じっと燃え盛る炎をみつめているだけだった。
「よし!」
おもむろにSENがギターを取り出し弾き始めた。
SENが奏でるメロディーは、焚火の煙と一緒に魚沼川の上流の方へと流れていった。

時の経つのも忘れ、川の流れを見詰めながら飲んでいたオオバが
「そろそろだね」
と言いながら立ち上がった。
いつの間にか、空は徐々に白みはじめ、夜明けの前兆を告げはじめた。
釣りの言葉で言う「朝まずめ」が始まろうとしているのである。

オオバとサトウはフライの仕度を始め、僕とSENは餌釣りの用意を始めた。
オオバ、サトウ組はベストやウエーダで装備を固め、岩魚を狙う為に上流へと向かった。
SENは釣りの初心者なので、僕と一緒に足場の良い堰堤の下流で山女を狙う事にした。

SENの竿に仕掛けと餌をセットしてやりポイントを教え、僕は堰堤のトロ場でルアー釣りを始めた。
朝もや漂う渓流にむかって竿をふるのはいつになってもいいものである。
すぐにSENの竿に山女がヒットした。
20cmの小型サイズだがSENはとても満足顔だった。
そしてまた一匹、二匹と連続ヒットを続ける。
ルアーでは何も釣れなかったので僕も餌釣りに切り替えた。
SENの少し下流で始めたが、すぐにヒットした。
竿を振る毎にヒットする。
まさか山女の入れ食いとは!
あまりにも釣れるのでテントで眠っていたカミサンを無理矢理起こし
「お前も釣れ!」
といってこれまた無理矢理釣らせた。
するとまたすぐにあたり。
寝ぼけ顔で釣っていたカミサンがだんだん生き生きしはじめた。
元来釣りキチの素質を備えているので釣りはうまい方なのである。
夜が完全に明けきったときにはすでに釣った山女の数は30をはるかに超していた。

一息いれようと岩場に座り込んだときに背後の草むらがガサガサいいだした。
「熊か!?」
思わず振り向くと熊そっくりのおじさんがむっつりした顔で立っている。
いつも思うのだが、人気の無い山奥で他人に突如出会う事くらい驚く事はない。
「入漁量一人1500円だ。今日は暇だから1000円でいい」
よくよく見ると地元の漁業組合のおじさんだった。
僕らが入漁量を支払うと、出てきたときと同じくらいの唐突さで道無き道を帰っていった。

時を同じく、岩魚を狙いに行ったオオバ・サトウのフライ組が帰ってきた。
釣果は岩魚一匹。
ま、いいか。という事で竿をたたみその日の夜の為に別の山へと向かった。

その夜は、湯沢町のオートキャンプ場にテントを張った。
早速、今日の釣果を祝い冷やしておいた冷たいビールで乾杯する。
七輪の炭火で焼いた山女の塩焼きはこれまた最高の肴である。
山女のかぐわしい香りと、昨夜とはうって変わった大騒ぎの中、越後湯沢の夜は秋の気配を増し、しんしんとふけて行くのであった。

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